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文科省の業務削減案は教員にとって新たな重石になりかねない

【第11回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■教育現場から上がる切実な声はどこへ消えた…

 そして、削減案は「パブリックコメントや教育委員会からの要望事項を整理して策定する」とされている。現場からの声を活かすというわけだが、それ自体が怪しい状況なのだ。
 中教審総会の席で、丸山洋司初等中等局長が今後の議論の方向性を示している。たとえば金銭的・時間的負担が大きな負担になっており、改善を求める要望が集まっている教員免許更新制度については、「10年ごとに30時間の講習を受ける現在の仕組みを、10年間の教師の学びを評価する方式に抜本的に転換する」と丸山局長は説明している。

 ただ「講習」を止めるのではなく、「評価」に転換するというのだ。評価となれば、評価者の目をいっそう気にしなくてはならない。教員の負担が減るどころか、教員の精神的負担は増すばかりになるだろう。管理体制の強化にとっては都合のいい施策で、文科省の狙いは、そこにあるのではないだろうか。
 要望を前向きに取り上げていくなら、「講習を止める」で留めておくべきではないのだろうか。しかし、そうは、ならない。

 さらに対策のために多くの時間を割かなければならない全国学力テスト(全国学力・学習状況調査等)について、「早期のCBT化を測る」と丸山局長は説明している。CBTは「Computer Based Testing」の略で、問題用紙やマークシートなどの紙を使わず、コンピュータで受験する方式のテストである。
 しかし、方式を変えたからといって、「対策」にかけている時間が減らせるわけではない。対策にかける時間を減らすには、対策をしなければならない状況を改めることを考えるべきだ。
 順位を発表して競争を促していることが対策を必要にさせているのだから、順位付けを止めることを、真っ先にやるべきである。

 また、全員参加の悉皆方式であることが、競争を煽り、対策がエスカレートしている原因にもなっている。悉皆方式を抽出方式に改めるだけでも、対策への負担を減らして欲しいという要望に応えることになる。しかし、そこには丸山局長は触れていない。
 CBT化はコンピュータ指導や機器の整備など、新たな負担が教員や学校に付与されるだけで、教員の働き方における効果的な改善策にはならない。

 ただし、「1人1台の端末普及」などによって、学校をICT(情報技術)化する文科省の「GIGAスクール構想」を促進するには、絶好のきっかけになるかもしれない。全国学力テストのCBT化に対応するためには、学校でのICT化をすすめていく必要があるからだ。
 つまり、働き方改革といいながら、実は、文科省に都合のいい施策を推し進めるためのものばかりでしかなく、学校現場での負担はますます増えるかもしれないのだ。

 「教員のため」と言いながら、実際には、教員は蚊帳の外に置かれかねない。文科省が示してくる「学校業務の具体的削減案」が、「絵に描いた餅」どころか教育現場に対する「さらなる重石」にならないか、引き続き注視していかなければならない。
 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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